桜が満開だった季節が、足早に通り過ぎていった。
私は、なんとも言えない虚無感を感じていた。
何だか逃げ出したいような、何もしたくないような。
どこかに行きたい。
どこか遠くに行きたい。
そんなふうに思っていた。
どこか遠くって、一体どこなんだろうと思う。
そんな時にふと思ったのが、いつもと違う景色。近くに居るのに、既に異世界。
満開の桜だ。
思い立って、会社を休んだ。
予定を空けることができたからだ。
上田城跡公園に足を運び、しばし、散策した。
お堀に満開の桜。
公園のベンチに座り、まだ賑わう前、開店準備の出店を見つめる。
こんな時間に公園のベンチに腰掛けるサラリーマン風の大人がひとり。
よくある、例の会社に行ったフリして今後の身の振り方について思案する例のアレみたいに見えるだろうか。
桜を見に来る人は多かった。
観光客と思われるご老人が見る限りでは圧倒的な数のように思える。
平日の昼間だからなのだろうか。
水面に映し出される桜。
この桜が一番情緒があると思っている。
一眼レフでも持ってくれば良かったのだろうけど、フラッと来たからな。
最後は、解放されていた球場のベンチに佇む。
ここからマウンドを見ながらノスタルジィに浸っていた。
若かりし自分が、試合で投げている姿を想像していた。
この角度からよく、親父が見てたのを思い出す。
予告なく現れて、試合が終わると去っている。
どんな心境でその姿を見ていたのだろう。
息子を持った今でも、その本当のところは本人に聞かないとわからないから、全ては謎だ。
サラリーマン風の大人が昼間からこんなところに佇むとは。
いよいよもって、見た感じから例のアレ的なフラグが立っていそうだ。
しかも物思いにふける姿から、近づき難いオーラすら感じられただろう。
決して遠くへ行かなくとも、気分は変わる。
近所ではあるけれど、外界から遮断された、開放感を得ることができた。
そういう時間は、とても尊いと感じた。